ひとの感想が聞きたいからまずは自分から書いてみよう

アマプラで見た映画の日記です。すかしたレビューもします。

今更聞けない『帰ってきたヒトラー』という大問題作映画の話をしましょう。

GAGAは商売が上手いらしい

衆院選の話題で持ちきりの昨今、インターネットに過ごしていれば「彼はファシストである」「しかしその論敵は某国のスパイらしい」といった噂話を皆様聞き飽きていると思います。

そんな時期に扱う今作。誤解のないように事前にお断りしますが、私は古今東西ありとあらゆる思想と信義に基づく権威を軽蔑しています。

強いて誰の味方と言えば己の趣味と、それらを維持するための金銭に基づく契約の下僕です。私を教化したければ給料を払え。

しかしいつだって商売が上手いやつは上手いもので、今作『帰ってきたヒトラー』の配給会社GAGAがこの時期、このタイミングで二週間の期限を設けて作品無料公開をしていました。

以前紹介した『最期の12日間』でインターネットミームで有名な部分だけを見せつつも全編の美しさは伏せるあたり、これは商売上手と素直に受け取るべきでしょう。

見事乗り遅れた私は無料公開期間終了後に本稿を公開するわけですが、無論そうまでしてしがみつく価値のある傑作です。

原作小説が出版された2012年は、ギリシャ危機を皮切りに現在まで続くEU分離主義運動の真っただ中にありました。

移民問題」と言い切ってしまえばその通りかも知れませんが、その言い切りの危険性に警鐘を鳴らす作品として注目を浴びたのが『帰ってきたヒトラー』です。

原作小説はタイムスリップしたヒトラーの自伝を読み、実際にそれが現実に起きたかのような気持ち悪さを味わう作品。「代弁してくれる」強い者に対する民主主義の脆弱性をごく個人的に描いた傑作です。

映画化にあたってはこれを所謂フェイク・ドキュメンタリー。モキュメンタリー風味を強めて翻案。実際にヒトラーの格好をしたオリヴァー・マスッチが市井の皆様にゲリラインタビューを敢行した映像を作品に含めるなど、より一層「過激」な作風を強調しています。

いずれのメディアでも合言葉は「笑うな危険」。日本語版の名キャッチがメッセージを「代弁してくれて」います。

 

 

笑うな危険、気づいたら手遅れ?原作小説の翻案の上手さもご覧あれ。

youtu.be

本作において私から特別言うべきことがあるとすれば、「小説の翻案が上手な映画」でしょう。

それは決して、ゲリラインタビューの実施といった枝葉の企画の話ではなく、小説の内容を映像に開花させ、作品の独自性を実らせることに成功しています。

ネオナチとの乱闘などわかりやすい部分が注目されるゲリラインタビューにしても、真に注目すべきは様々な一般市民がもらす何気ない言葉。

その後の経緯を含めて俯瞰できる我々からすれば明確な「間違い」である「外国人が悪い」という言い方も、彼らにとっては明白な大問題。

キッチンカーを経営する女性が移民の子供に商売道具を荒らされ、排外主義を口にすることは、モラルの観点で断じれば間違いです。

ですが彼女の視点に立てば、ルーツのよくわからない恐ろしい子供に嫌悪感を抱くことはあまりにも自然です。どうして責められましょうか。

一方で「アフリカ系移民のIQは50が平均」などと火を見るよりも明らかな疑似科学論者もいます。

そして彼らが皆同じレイヤーにあるとして、ヒトラーの目には彼らが己を求める市民として映ります。

ヒトラーは言うまでもなく自覚しています、彼らに明白な回答を示す英雄、「代弁してくれる人」が必要であると。

これこそ正に作品の普遍性を担保するテーマでしょう。

依然変わりなく、事実上の単一民族国家として運用されている、私たちの日本国にとっても、最早笑い事ではありません。

ヒステリックに論じられる「外国人問題」の根源が正に「代弁者」の登場と思考の委託にあり、敵の居所を示してくれる彼らはどこにでも現れるからです。

もしヒトラーが帰ってきても、或いはあそこまでよくできたカリスマが現れずとも、人は問題の単純化に依存する生き物です。

小説では、「よくわからない」うちに過激なことを言う彼に問題の解決を託してしまう、滑り落ちるような気持ち悪さのモキュメンタリーとして。

映画の翻案は、狂騒曲に流されたまま代弁者を自負した彼に全てを持ち去られる、とんだ笑い話として。

笑うな危険、ツッコミ役不在の恐怖。民主主義における「反論」の大切さ。ファシストが現れたときにすべきことは彼らを罵倒するのではなく、彼らに乗せられるような社会を作らない日々の努力と数多の問題の枝葉の明示。

ヒトラーが帰ってこなくとも悪化し続ける今を生きるなら、是非鑑賞すべき「わかりにくさ」の尊さを描いた傑作です。

 

私みたいに見落としている人がいたら是非見て欲しい。あなたの感想も聞きたいから。